2、完璧

意味  欠点や足りない部分が全くなく、完全なこと。
由来

 時は変わって戦国時代、趙(ちょう)の恵文王(けいぶんおう)は、和氏(かし)の璧(へき)という名玉を手に入れた。秦(しん)の昭王(しょうおう)はこれを聞き、恵文王に、秦の城(都市)15とその玉を交換したい、という書面を送った。当時の秦は強大な国力を背景に他国に無理難題を押しつけては口実を見つけ、侵略を繰り返していて、虎や狼のように残忍で欲深い「虎狼の秦」といわれるほどであった。この場合も璧を渡しても城はもらえそうにないし、渡さねば攻められるであろう。かといって、ただで璧を与えてしまっては趙の大国としての威厳に傷が付く。趙の大臣達は困った。

 そのときある人物が、自分の家来、藺相如(りんしょうじょ)を秦への使者として推挙した。召し出された藺相如は大臣達と同じ見解を示した上で、「もし城が手に入らないときは、璧(へき)を無事に持って帰ってくる(城入らずんば、臣請う璧を完うして趙に帰らん)」と言った。完璧の語源はここ、「璧を全うする」であり、辞書などに記されている「傷のない宝玉」は誤りであるようだ。
 さて、秦に行った藺相如は昭王に璧を献上した。しかし、昭王に城を与える気がないことを察知すると、「璧には傷があるのでご覧に入れましょう」と言って璧を取り返すと、柱を背にし、こう言ったという。

 「無冠の者同士でもお互いをだますことはせず、まして大国の間ではなおさらです。璧一つで両国の友好関係を悪化させてはならないと趙王を説いてやってきたのに、王は城をくれそうにないではないか。もし王が私を脅迫するのなら、私は璧もろとも頭を柱に打ち付けて砕いて見せましょう」

 大国の威服に屈せず、堂々と「璧を全うし」て国に帰った藺相如は賢者として名を知られることになる。よく「完璧」の「ぺき」は「壁」ではない、と注意されるが、その理由はお分かりになったことだろう。
豆知識  現在中国では下の強調部「完璧帰趙」という四字熟語があるが、今日では、品物が無事に持ち主に返るという意味で用いられている。
原典 相如曰はく、「王必ず人無くんば、臣願はくは璧を奉じて往きて使いせん。城趙に入らば璧は秦に留め、城入らずんば、臣請ううしてらん」と。[史記 廉頗藺相如列伝]

 

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