2、歌物語

 

歌物語というのは、歌を中心として、その歌の詠作の事情などを物語風に語っているものです。この歌物語の代表作は「伊勢物語」、「平中物語」、「大和物語」の三つで、どれも平安時代に書かれたもので、三つとも作者不明です。
この三つの作品について、それぞれ検証したいと思います。

 

「伊勢物語」について
この作品は平安前期のもので、951年前後に現存本がまとめられたと推定されています。9世紀、小野小町とともに六歌仙のひとりに数えられている在原業平、その在原業平をモデルにした主人公「昔男」の短編の物語125段からなる作品です。

全段を通じて、男女のさまざまな愛情のもつれ、友情の美しさ、母子及び主従の愛、といったものが描かれており、当時の時代背景を感じさせる作品であり、文芸性が豊かで、「源氏物語」と同様に後世文学に与えた影響は大きいと思われます。

 

「平中物語」について
この物語は物語中で「男」と呼ばれる好色者、平貞文を主人公とした38段から成る歌物語です。序段はひとりの女を二人の男が争うことから始まっています。
女に早くから言い寄った男は公的な地位が高く、後から求愛した男は前の男より地位が低かった。ところが、女はどう思ったのか身分の低いほうの男に心を寄せてしまった。その仕返しは公的な世界においてなされた。その恨みは中傷という形をとり、ついに身分の低い男は官位を奪われ、公職から追放されてしまう。
上のような感じで物語は進んでいきます。序段はまだ続きますが、上の文だけ見てみても、現代の文学作品にもありそうな話の展開の仕方ですね。「今は昔」の冒頭段に始まって、次々に「同じ男」と続けて、平中という男の人間像を造形していく点は、先ほど紹介した「伊勢物語」に極めて近い形です。序段を読んでいくと男のひがみを持つ心境が当時の弱小貴族、それのひとつの典型であると考えられます。それは男への同情と共感を十分に呼ぶものだったでしょう。
平安前期に書かれたこの作品の作者は不明ですが、平貞文自記説、貞文の子の平時経説などがあります。

 

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