鄧芝

字は伯苗　　蜀の臣

鄧芝は若い時、名のある人相見に「君は七十歳を越えてから大将軍の位に達し、候に封じられるだろう。」と言われた。つまり、大器晩成型の人物だったのだ。その後、劉備(りゅうび)に仕えた鄧芝は様々な土地の太守を任されたが、どの土地でも清潔かつ厳正な態度をとって素晴らしい治績をあげた。

劉備が没して後、諸葛亮が呉との関係に不安を感じ、心配していたところ、鄧芝が「我が君はまだ幼く、即位なされたばかりです。故に早めに呉に大使を送り、友好関係を築くべきです。」と提案した。それを聞いた諸葛亮は「私もそれを考えていたが、適当な人物がいなかった。しかし、今日初めてその人を見つけた。」と言い、鄧芝を大使として呉に派遣した。孫権ははじめは鄧芝と会うのを躊躇(ためら)っていたが、鄧芝の「今回私が参ったのは呉のためを思ってのことである。」という言葉を聞き、彼と会見した。孫権は鄧芝の流れるような弁舌によって説得され、蜀と同盟を結んだ。孫権は内心、鄧芝の外交官としての才能に感心したという。後に孫権が諸葛亮に送った手紙のなかに「蜀呉が和睦できたのは一重に鄧芝のおかげである。」と書いてあった。

＜考察＞

蜀の外交官といえばこの人でしょう！！五虎将も半分が死に、法正(ほうせい)・馬良(ばりょう)・?統(ほうとう)ら優秀な文官までもがいなくなった蜀にとって、鄧芝(とうし)の存在は貴重だったに違いない。もし鄧芝が蜀にいなかったら(つまり魏だけでなく呉までも敵に回していたとしたら)、蜀の寿命は劉備(りゅうび)が死んでから五年くらいしか持たなかったのではないか。ここに優秀な外交官の大事さ、また、彼らがもたらす成果の大きさを見出すことが出来ると思う。