はじめに

 

 読者の皆さんは古代中国、と聞いて何を連想されるだろうか。「中国四千年の歴史」、「天下統一の大事業を行なった秦の始皇帝」、または「三国志」といったキーワードなら思い付く、という人は結構いると思うのだが、多くの人にとって古代中国とは、何か漠然としたものであると思う。読者の皆さんに古代中国について知ってもらうべく、この章では内容を大きく三つに分けて、第一部は古代中国史についての詳しい説明、第二部では人々が存亡を賭けて戦った決戦と古代中国の歴史上重要な人物を取り上げて分析、第三部では儒教や「侠(きょう)」の精神と呼ばれる中国の古代思想について考えてみた。
 ところで、筆者が古代中国にハマるきっかけとなったのは、古代中国を題材とした小説との出会いであった。それらは吉川英治氏の『三国志』であったり、宮城谷昌光氏の『晏子(あんし)』であったり、あるいは司馬遼太郎氏の『項羽と劉邦』や陳舜臣氏の『諸葛孔明』であったりした。読者諸兄の中にもこれらの小説を手にとってみられた方も多いかと思う。歴史小説家達は基本的に「人」に重点を置き、その時代の時代背景に多少の脚色を施して一つの物語とし、読み手にわかりやすい形で歴史(人物、歴史の流れ、思想、戦いなど)を説明しているのである。
 中国古代史を説明するといってもその範囲は黄河文明の起こりから三国時代までとかなり広いので、ここでは春秋・戦国時代を中心に見ていこうと思う。また上に挙げた小説家の中でも宮城谷氏は春秋・戦国時代を扱った小説家の第一人者として広く知られており、彼の著作・作風なども紹介していこうと思う。
 この章のコンセプトは、まず古代中国について知らない人にもいくらかの発見をしてもらう、ということと小説などを読んでいてある程度予備知識がある人にもより詳しい歴史を知ってもらう、ということである。
 これに基づき第一部は、学校では習わないような詳しい中国古代史の説明を行なってみた。また、第一部の最初の部分は中国古代史のあらすじになっており、どうしても長い文を読むのは苦手だと言う方はそちらだけを読んで頂いても構わない。第二部、第三部も[歴史をわかりやすく説明する]ことを目的として、歴史を創る「人」、そして人が思考を重ねた結果であり、人が行動する原理となり得る「思想」をそれぞれエピソードを交えながら構成してみた。読者の方々には、自分の好きなジャンルから、あるいはとっつき易いテーマからでも良いので、ここから少しでも何かを得て、古代の戦乱期を生き抜いた人々の思いを汲み取って頂ければ、書き手にとってもこれに勝る喜びはない。

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